空き家を通じて地域と移住者をつなぐ『暮らしの問屋』

地域づくり事例

フローレンスとクルミドコーヒーから津屋崎へ

『暮らしの問屋』というホームページがあります。

津屋崎で不動産業を営む古橋さんのサイトです。

閲覧すると津屋崎や福間を中心に、緑の多い田舎の物件が目に飛び込んできます。

私は田舎暮らしに憧れて糸島に移り住みましたが、もし移住前にこのサイトを知っていたら、住んでいたのは津屋崎だったかもしれません。

そんな魅力的な不動産屋さんを経営されています。

古橋さんの経歴はかなり異色です大分県の大学を卒業後、東京に移り、病児保育で有名なNPO法人フローレンスでインターンシップをしていました。

職員としても誘われたそうですが、当時は“バリバリの企業戦士になりたかった”そうでマンションデベロッパーに就職しています。

営業経験がないのに営業広告企画部に配属されたりして苦労したそうです。

そんなさなかに、人と人が触れ合うカフェに興味をもち、北欧発のコレクティブハウスをモデルにして建てられた、店舗、SOHO、賃貸住宅が一体化したマージュ西国分寺に住み始めます。

仕事や生活、お店などのコミュニティが重なりあう場づくりに感化され、同1階にオープンしたクルミドコーヒーで働くようになりました。

「本当は、津屋崎でもカフェをしたかったんです。クルミドコーヒーにカフェ経営のアドバイスをした『マメヒコ』のオーナーにも相談しました」

「でも津屋崎でカフェをすると、事業としてではなく“貧しさを良しとする”カフェになるといわれて、じゃあ『カフェのような不動産屋』ができればと発想を変えました」

「不動産屋は物件を紹介するものですが、僕はカフェのように住んでる人やそこでのライフスタイルを紹介してみようと思った」

と不動産事業を始めたきっかけを話してくれました。

元鍛冶屋の家のプロジェクトを説明する古橋さん

小さな田舎でも成り立つ不動産業

そもそも津屋崎にくるきっかけは、NPO法人地域交流センター「津屋崎ブランチ」にいた都郷なびさん(奥さん)の存在。

彼女とは同郷で高校の同級生なのだそうです。

一緒に故郷の京都に戻るか、東京に彼女を呼ぶか、津屋崎に自分が行くかという三択の中で悩んだすえ、選んだのは津屋崎でした。

「クルミドコーヒーは、店主の影山さんの“強い思い”がこもった場所。津屋崎なら自分の思いを重ねる余白もあるのでは

と津屋崎を選んだ理由を話してくれましたが、男性の方から女性のいる場所へ移り住むのは、なかなかできることではないので正直驚きました。

『暮らしの問屋』の事業を教えてもらうと、不動産の①管理業務、②仲介、③売買、④サブリースの4つを行っています。

「現在7件の物件を管理しています。仲介は成約しないと収入にならないため安定しません。力を入れているのはサブリース事業です」

ちょうど元鍛冶屋の家を改修していたので、その実例をもとにサブリースの事業スキームを説明してもらいました。

「まず、暮らしの問屋が物件を大家さんから月2万円で5年間借り受け、それに120万円かけて改修を行います」

「改修費用を5年間で償還すると月2万円です。賃貸物件として6万5千円で転貸するので、差額の2万5千円が暮らしの問屋の収入になります(厳密には、大家さんから管理料として月5千円いただくので実質1万5千円で借りていることになり、3万円の収入となる)」

「今のところ、管理物件が7件、サブリースが3件です。1年半やってみて、ようやく損益分岐点が見えてきました」と笑いながら答えてくれました。

管理業務とサブリースは、月々の収入が安定的に発生するので、小さな不動産でもなんとか生活していけるそうです。

元鍛冶屋の家

人と人の顔が見える関係づくり

実は、古橋さんの取り組むサブリース事業は、ベースがなかったわけではありません。

5年前に津屋崎ブランチが行った空き家改修事業を受け継いでいます。

津屋崎ブランチがこれまで培ってきた地元との信頼関係や空家改修の実績が暮らしの問屋の事業の基礎になっています。

「暮らしの問屋の強みは、大家さん好みの借主さんを紹介できることですね。田舎に家をもつ大家さんは、地域の目もありますからどんな人が借りるかにとても敏感です」

「暮らしの問屋では、借主の資金面だけでなく、人柄も非常に重視します。また、大家さんと借主のご家族が会う機会もつくっていて、そうすることで、ちょっとしたDIYを許してもらえるなど、ちょっとした融通も効くようになりますね」

「かねてから人のニオイのしない契約には疑問を感じて、津屋崎では、ビジネス的論理だけではないものをやりたかったんです。効率では測れない豊かさも大事にしたくて」

といわれるように、人と人の顔の見える関係にこだわった取り組みをされています。

移住相談も行っていて、現在45世帯ぐらいの移住希望者がいるそうです。

「相談者の多くは九州の人ですが、中国地方、関東からの人もいます。子育て世代が多いですね。主にホームページや津屋崎ブランチ経由で相談が来ます」とのこと。

津屋崎はバスの便数も少なく、大きなスーパーも近くにないため、車がないと不便な土地柄ですが、津屋崎ブランチのように、若い人たちが地域コミュニティと上手に付き合いながら、地域の内外にファンを増やしていて、それがまた質の良い移住希望者の増加につながっているように感じました。

元鍛冶屋さんの家の改修計画図

現代版のもやい再構築

2月下旬に、古橋さんから、元鍛冶屋の家の改修現場の見学会を行なうので参加しませんかと案内をいただいたので、さっそく行ってきました。

現地をみた第一印象は、まだ新しいのでそのままでも十分使えるのではないかという感じでした。

「当初、大家さんの意向で、そのまま貸して悪いところは借り主さんに改修してもらうことを検討しました。

7,8組のご家族に紹介したのですが、合意にはいたらなかったので、改修をすることにしました」とのこと。

改修についても、大家さんの意向を組み、間取りの変更などは行わず、軽微な改修にとどめています。

「床、畳の張替え雨漏りの工事などで、120万円ほどかかる予定です。当初は100万円以内で収まるかなと思ったのですが、雨漏りを見つけられず、その部分の費用がかかってしまいました」

「畳の部屋を一つ、フローリングに改修するのは、借主さんの意向で、ご本人の負担でされる予定です。壁は借主さんと一緒にDIYでしようということで費用に含めていません」とのこと。

改修費用の120万円をどのように調達したのか聞いてみると、「総額を暮らしの問屋で負担することは困難な状況でしたので、半分の60万円を地域の人から集めることにしました」

「ものがたり銀行という仕組みをつくっています。本当の金融ではなく、一口5万円で出資者を12人募り、2年後に返却するというものです。利息は居住者が地元の山笠に参加したり、建物のビフォア・アフターツアーに参加できることです。現在10口集まっていて、まだ募集しています」

「この取り組みによって、鍛冶屋の物語が守られますし、新しい家族の物語も生まれ、地域の人たちとも仲間になれます」とのこと。

近所づきあいだけでなく、お金の可能性も含めて新しい人間関係を築こうとしている古橋さんの思いと行動には頭が下がりました。まさに“現代のもやい”の再構築だなと思いました。

雨漏りの改修状況