Categories: 地域づくり事例

地域づくりを考えるゲストハウス開業合宿

みんなが輪になって語る車座スタイルの合宿

2月3日から3日間、岡山県倉敷市で開催された「地域で必要とされるゲストハウス開業合宿」に参加しました。

今回で17回目になる取り組みで、北海道、新潟、神奈川、大阪、広島、長崎など全国各地から11人が集まっていました。

職業もビジネスホテルや旅館業の人から、IT系ビジネス、地域おこし協力隊とさまざまです。

動機も10代のころからゲストハウスをしたくてたまらない人から、まちづくりのツールとしての可能性を探る人、やる気のモチベーションを上げたい人まで、実にさまざまでした。

私は「地域に必要とされる」という言葉に引かれて参加しました。

自分自身が関わる糸島市の岐志浜集落で、空き家をゲストハウスとして活用すれば、新しい活力を地域に生めるのではないかと思っていました。

合宿で可能性が開ければ、実際に動きだしたい気持ちでした。

合宿は美観地区から少し外れた場所にある一棟貸しのゲストハウス「バルビゾン」で行われました。

メイン講師の中村さんはNPO法人アースキューブジャパンの代表で、全国のゲストハウスの開業や運営を支援されています。

もともとは美観地区内にあるゲストハウス「有鄰庵」の創業者でもあります。

みんなが輪になり、膝を突き合わせて話し合う車座(くるまざ)のスタイルで、3日間ぶっ通しでゲストハウスの講義や事業計画づくりなどを行いました。

合宿会場の旅籠バルビゾン。ここに3日間缶詰

地域と一体となって営む「地域まるごと宿」の構想

初日はゲストハウスの成り立ちなどについて、中村さんが話してくれました。

近年ゲストハウスが増えており、バックパッカーズ宿やユースホステルなども参入しており、「ゲストハウス」という言葉が使い古されてイメージが変わってきていること、コンセプトをしっかり立てずに開業すると価格競争に陥ってしまうことなどを教えてもらいました。

これから始めるのであれば、地域文化を伝えるカルチュラルハウスのような新たなコンセプトを生み出し、差別化を図る必要があるそうです。

「地域に必要とされるゲストハウス」とは、ホテルのように宿泊から飲食サービスまで抱え込むのではなく、食事や買物などは地域のお店を利用してもらい、お互いに協力しあいながら地域が一体となって魅力を伝え、営んでいく「地域まるごと宿」というコンセプトにつながっていました。

尖った事業コンセプトに共感する人だけを集めるという発想

今回の合宿で最初に学んだのは、ペルソナの設定の大切さです。

マーケティングの基礎として必要性を知ってはいましたが、具体的に詳細まで設定したことはありませんでした。

最初、女性のペルソナをイメージしたのですが、服装や家族構成、趣味などが浮かんできません。

如何に自分が他人の感覚がわかっていないかを痛感しました。

練習なので自分に近い男性のペルソナを設定したのですが、ゲストハウスにつながる導線をなかなか設定できません。

やはりファミリー層とゲストハウスの接点は女性の方が多そうだと改めて気付かされました。

初日には、ペルソナと合わせて事業のコンセプトも検討したのですが、中村さんからは、「10年後もやっているイメージをもつこと」、「疲れた宿にならないために本人が楽しめることが大事だ」ということを教わりました。

自分が想定したペルソナと違った顧客がきた場合、自分が疲弊した経験が過去にあったので非常に納得しました。

ゲストハウス事業で疲弊しないためには、自分の好みで事業コンセプトをとことん尖らせてよく、そのコンセプトに共感してくれた人だけが来てくれればよいという発想は衝撃的でした。

旅館やビジネスホテルのように誰でも泊まれる汎用的な広がりではなく、突き抜けることでお客を開拓するという姿勢はハイリスクのようですが、長期的にみると安定しそうです。

ただ、有鄰庵も開業当初は、一月のあいだに2人しかお客さんが来ず、家賃確保のためにラムネ売りをしたこともあったそうです。

意味は理解はできるのですが、実践するには相当勇気のいる考え方だと思いました。

車座の飲み会には全員参加

朝食の片付けから事業コンセプトを思いつく

ペルソナの設定も事業コンセプトもまだまだ作り込みが足りないまま、車座での飲み会に突入しました。

旅館のスリッパを使った世界卓球大会の話など、参加者がそれぞれの地域で行っている活動の話で盛り上がり、12時近くまで飲んだ後、有鄰庵に戻って再びペルソナと事業コンセプトづくりです。

みんな熱心なので、自分からもう寝るとはいいにくい雰囲気でした。

私自身は岐志浜集落をイメージして、漁師体験を核にした事業コンセプトをつくっていたのですが、なかなか来訪者と地域の接点をイメージできません。結局夜もほとんど眠れませんでした。

朝、卵かけご飯をいただき、台所で器を洗っていたとき、スタッフの人たちと子どもの話題で話がはずみました。

そのとき、ふと台所が来訪者と地元の接点になるのではないかと思いました。

漁師のお母さんに魚の捌き方を習いながら談笑している姿が浮かびます。

コンセプトが決まると後は早いもので、集落の中心にある空き家を台所とレセプションルームに仕立て、周囲にある空き家を一棟貸しのゲストハウスにするという計画ができました。

まさに「地域まるごと宿」を具体化したアイディアでした。

深夜の有鄰庵。日付が変わっても事業コンセプトとペルソナづくり

客単価からみえる事業規模

2日目は事業コンセプトとペルソナを発表した後、資金調達や事業収支などの数字にまつわる講義です。

阿蘇と太宰府でゲストハウスを営む「阿蘇び心」のじゃけんさんが、実際の店舗開業時のデータを使って丁寧に説明してくれるのですが、前日の徹夜がたたり、なかなか数字が頭に入ってきません。

余力を残しておかなかったことを後悔しながら、スタッフが最低2人いれば施設をまわせること、清掃が非常に重要であり2〜3時間の確保が必要なことを学びました。

事業収支も検討したのですが、後日見直してみると、客単価3,000円だと2人のスタッフで回すためには月300人の利用が必要になります。

ゲストハウスの稼働率はよくて5割なのだそうで、このスキームを成り立たせるためには20人が泊まれる部屋が必要になることがわかります。

小規模の家を使い、少人数で事業を成り立たせるには、体験交流など付加価値のあるプログラムを併せて提供することが必要だなと改めて感じた次第です。

事業イメージを絵に描いて説明しているところ

ネットワークが自分の価値

最終日の3日目は、再び様々な制約から離れ、「自分にしか提供できない価値は何か」を問われました。

ゲストハウスから離れて考えてよいので、やりたいことを絵に描くというお題です。自由すぎて逆に手が動きません。

合宿のサポートスタッフの方々からアドバイスをもらいながら、改めて自分の原点を見直すと、糸島には農家から工房、飲食店などさまざまな事業者がいて、ゆるくつながっていることを思い出しました。

自分もそのネットワークに参加させてもらえていることが自分の価値だと感じました。

また、空き家も各集落に点在しています。これらの資源を活かして、糸島の各地に工房や農業などで起業や創業に憧れる人たちが集まる「糸島まるごと宿」のようなものがつくれないかと思いました。

この合宿は、ゲストハウスの開業を目的としていますが、地域づくりを考える合宿でもありました。

自ら地域で事業を興すために必要な視点や考え方をいくつも学ばせてもらったと思います。

一緒に参加した仲間たちが「本当に自分はやりたいのか?」と自問自答する場面になんども遭遇しました。

自分自身と向き合う時間と場所を提供してもらえる合宿でもありました。

また、仲間にも恵まれました。全員が飲み会に参加したのは17回で初めてだそうです。

地域への愛情、事業への純粋な思いを持っており、ネットワークを大切にする人たちばかりでした。

全国に思いのある仲間ができたことも新たな財産です。

「糸島まるごと宿」の構想は、こうした仲間に応援してもらいながら、自分自身のライフワークとして少しずつ取り組んでいければと思います。

17期のスタッフとメンバーと

ほんちゃん(本田正明)

地方生まれ、地方育ちの40代子育てフリーランス。都市計画の専門家ですが、地場企業や大学、自治体と公民学連携プロジェクトに携わっています。学生たちと農漁村での地域づくりやソーシャルビジネスを展開中。フィールドワーク大好き。福岡県糸島市在住。九州産業大学非常勤講師。

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