こんにちは、ほんちゃん(@hmasa70)です。
昔ながらの町家の風景が残る御供所町。
ここで古民家の空き家物件を自ら買い取り、改修を行いながら運用を行っている人がいます。
ふくたくの小林さんです。
どうしてリスクの高い木造の空き家(古民家)の再生に取り組むようになったのか。
その顛末をお聞きしました。
博多に新しくできたゲストハウス「B&C Gakubuchi」の改修工事を手伝いにいったときのことでした。
私の隣で、壁塗りを手伝いながら、成年後見人制度や相続のことを携帯電話で話をしている人がいました。
どんな人だろうと気になっていると、ゲストハウスの人からお部屋を紹介してくれた不動産屋さんだと紹介されました。
それが小林さんでした。
不動産業者が借主のDIYを手伝うのは珍しいと思い、話を聞いてみると、古民家物件を自ら買取って、リノベーション(小林さんは再生と表現しています)して貸し出しているとのこと。
片付けなども自分たちで行っているそうで、壁塗りの手伝いをしているのも納得です。
「B&C Gakubuchi」の建物は、別にオーナーがいるそうですが、自ら物件を買取って運用する取り組みは、非常に興味深かったので、話をお聞きしました。
小林さんと私が出会ったB&C Gakubuchi
小林さんは、以前東京で土木関連のソフトウェア開発会社に務められていたそうです。
相当稼ぎはよかったそうですが、寝る間もないくらい働いて、疲れてリタイアされたそうです。
「地元が博多区の神屋町なんです。祖母が家業で不動産業をしているので、家業を継ごうかなと福岡に戻ってきました。
しかし、会社を辞めて戻ってくると、祖母からは今更若い人と仕事できないし、払う給料もないと断られまして…」と、アテが外れてしまったそうです。
別の不動産会社に勤めてみたそうですが、「不動産業を実際やったことがなかったので、外で勉強しようと思ったのですが、3日間仕事してみて、これであれば自分でやれるかなと思いまして…」と、すぐに辞めてしまったそうです。
結局自ら不動産会社である「㈱福岡宅建」を創業されます。
「ゼロからの創業であったため、仕事がなくて、生活が不安定で、その打開策として、不動産取引の当事者である家主になりたかったですね。ただなかなか銀行からお金を借りることができなくて。」
「そんな中、当時テレビで『劇的ビフォーアフター』や『ドリームハウス』などが流行っていました。」
「わけあり物件の改修工事、建物の再生、奇抜なアイデアの建築等、テレビではこういったものが多く放映されていました。私もそれらを見ながら、自分でもできそうだな。やってみたいなとその熱意を温めていました」
といわれるように、古い建物を建替えずに再生する取り組みがメディアを通じて認知されつつある状況でした。
そんなとき、知り合いから「私の物件を買わないか」と声をかけてもらいます。物件も見ずに即答で購入を決めたそうです。
「購入した後に初めて物件を見ました。中に入ると、スナックとして使われていたらしく、昼でも真っ暗でした。
2階の床は傾いているし、天井からゴキブリが降ってくるんですよ」と、私たちからすると廃屋同然のような物件を、確かめずによく購入したと思うのですが、「自分の初めての物件ですから、嬉しくてですね。
近所に挨拶廻りにいったんですが、トタンの音がうるさい、倒れそうで怖い、猫屋敷をどうにかしてほしいとクレームの雨あられでした」と笑いながら話していましたが、周りの人からも相当な危険家屋と見られていたようです。
それだけに物件はそれ相応だったようですが購入後の改修資金がありません。
運転資金を切り詰めて、改修費を工面したそうです。この物件の購入と改修を期に、古民家の再生を手がけられるようになります。
福岡宅建が入る再生古民家。隣はフレンチのレストラン
これまで建築に関わってことがないのに、どうやって改修を進めたのでしょうか。
「テレビでは、最初にバールで壁やら天井を壊すんです。気持ちよさそうだと思って、自分でやりました。
そうすると、建物の構造などがよくわかります。どうやって作られているとか、すごく勉強にもなります。
また、壊している中、どうのように建物を再生したら面白くなるだろうかと色々とイメージが湧いてきます」
小林さんは、基本的に設計士は入れずに、水道や電気などの工事を職人に個別発注しながら、改修します。工務店の役割を自ら担っています。
「見積もりは取りましたが、その根拠がわかりませんでした。安いのか、高いのかも。また、工事によってはその工事自体が必要なのかも判断できませんでした」
「梁や天井裏、基礎が見えないのにどうして見積もれるのだろうと思って、お金も潤沢に有りませんでしたし、自分でやるようになりました」
できるだけDIYで行うことで、工事費が下がる効果もあるようです。
小林さんの手がけた物件は、基本的に柱を見える真壁と天井をむき出しにて小屋組みを見せるようにしているそうです。
木の温かみや天井高さの開放感が生まれる一方で、空調などの効きが悪くなり、光熱費がかさみますが、建物の維持管理にはとてもいいようです。
「最初に購入した物件がたまたま木造だったのですが、今考えると木造でよかったと思います」
「木造は部分的な柱の入れ替えなども鉄筋コンクリートと比べて容易ですし、階段の取替や間取りの変更なども比較的容易にできると思います」
「私の場合、改修後はほとんどテナント向けに貸出しています。多くの人に触れてもらえるし、趣のある古民家でお店を作れると借手にも喜ばれるということが大きいですね」
博多の町家も多分に漏れず、間口が狭く、うなぎの寝床のようなところがほとんどです。
建替えれば、街の趣きが失われるだけでなく、建築面積も狭くなってしまいます。
防火地域であれば、雰囲気のある木造建物を商売用に建築する事は難しいです。
また、御供所という場所は、天神や博多駅からもアクセスがよく、飲食店などの立地も見られる地域でした。
土地柄としてもリノベーションとの相性が良かったようです。
「最初に購入した金屋小路の町家は、家賃収入から経費を引いた表面利回りが15%強です。これには建物の購入費と改修費の返済も含まれます」
「今、中古物件の利回りは6〜7%、新築は5%を切る場合もありますから、かなりの高利回りです。改修費も7年ぐらいでペイできます」
といわれるように、ビジネスとしてもメリットの高い取り組みとなっています。
ただ、家主業はいいことばかりではありません。
不動産は経年劣化していくので、維持、保全が必要です。
そのための時間やお金もかかります。
突然シロアリが出てきたり、水道管が破裂したりするトラブルもあります。
「古民家の場合、どんなトラブルがいつ起きるか想定できません。そのため、全ての契約を定期借家契約にしています」
「契約期間中に建物の不具合が出れば、営業をストップしないといけなくなります。そうするとオーナーは営業保証をしなくてはならないケースもあります。オーナーが途中にメンテナンスを行えるようにするためにも、定期借家契約が必要なんです」
「それでも、契約の更新前に、シロアリでトラブルになるケースがありました」
といわれるように木造古民家のシロアリはどうしても切り離せない問題です。
テナントとして貸し出す場合のリスクの大きさは住宅以上だと感じました。
話をしていただいた小林さん。古民家再生で御供所の雰囲気が変わりつつある
不動産業を始めてから現在で12年目。
これまで6棟を買い取り、運用を行っています。
また、古民家を所有するオーナーからの相談も増え、仲介や管理物件も増えています。
小林さんは基本銀行からの融資を借り入れる事で不動産を購入しています。
件数も増えているので、それなりに借入金も増えているようです。
また、これからも積極的に件数を増やしていきたいそうです。
よくそれだけのリスクを負えるなと思いますが、その背景には堅実なビジネスモデルがありました。
「私が手掛ける古民家のような物件を運用する場合は、改修工事を先に行わず、借り手(利用者)を先に見つけています」
「だいたいの家賃条件などを設定して早々に募集をかけます。条件には家主がこんな建物として利用してもらいたい。こんな使い方(業種)をしてもらいたい。古民家の雰囲気は残してもらいたいなどのイメージを伝え、家主はここまで改修に手を加えますと説明をします」
初めてのお客さんの中には、改修後の建物のイメージができず、契約できない人もいるそうですが、このプロセスを通じて家主の意向に沿った借り主を選定できるそうです。
「マッチングを先行して、まずお客さんを探します。お客がつけば、改修工事の費用負担割合を決めます。家主がどこまで改修工事をするか、引き渡しの状態によって家賃をいくらにするか、契約内容をどうするかを先に決めてしまいます」
「お客が決まれば、おおよその事業計画もつくれます。家賃収入が見込めれば、改修工事費用に銀行もお金を貸してくれます。この時点で事業計画をある程度つくってしまっています。先にお金を突っ込んだり、物件を塩漬けしたりすることなく、運用ができていると思っています」
既存の概念に囚われない新しい不動産事業の一つのモデルだと思いました。
「ボクは、お店に来た人がお客だとは思っていません」
「実際にその日は物件を紹介せずに一度帰ってもらいます。そのかわり、要望を聞いて調べて、後日調整した日に10件ぐらいをまとめてみせたりします」
と付き合い方も独特です。
合う人と合わない人に分かれるそうですが、徹底的に付き合うスタンスも魅力だと思いました。
来年には糸島に移住し、郊外での建物の再生・再利用にもチャレンジしたいとのこと。
農業にも興味があるそうです。
私と同世代で子育て中ですが、独立しながら攻めの姿勢を貫き続ける小林さんを見ていると、やらないことの言い訳はまったくできないと思います。
とにかくやってみる、やりながら考えるという見本のような人でした。