地域づくり事例

福祉の枠を超えて地域とつながる「なごみの家しかた」

こんにちは、ほんちゃん (@hmasa70) です。

地域に新たな稼ぎをつくることと並んで、住み続けられる環境づくりはボクの関心事です。

高齢者の1人暮らしでも、地域で孤立せず暮らしていけるゆるやかな繋がりをつくりたい。

四箇田団地の「なごみの家しかた」は、福祉や介護の枠を超えて地域と関わることでそうしたつながりを作っています。

暮らしのセーフティネットとして、民間ができることをもっと知りたいと思い、訪問させてもらいました。

四箇田団地の1階店舗スペースで運営する「なごみの家しかた」

四箇田団地は福岡市早良区にあります。

福岡市の中心部から西鉄バスで約1時間ほどかかる郊外の住宅団地です。

1990年代には5000人を超える住民が住んでいたそうですが、今は人口の流出や減少が進み3000人ほど。

高齢化率も4割近くと高く、一人暮らしの方も多いそうです。

マンションの一階にはスーパーの西鉄ストアがありにぎやか。

でも団地の内側に入ると、打って変わって静かな環境に変わります。

小規模多機能ホーム「なごみの家しかた」とコミュニティスペース「しかたの茶の間」は商店が並ぶ団地の1階にありました。

施設は並んでいるものの、入口も二つあります。

さて、どちらに伺えばいいのだろう?

悩んでいると、運営をしている宮川さんが出てきてくれました。

併設している「なごみの家しかた」と「しかたの茶の間」
【小規模多機能ホームとは】
小規模多機能型居宅介護といって、利用者ができるだけ自立した日常生活を送るよう施設に通いながら、短期間の宿泊や利用者の自宅への訪問を組合せて、家庭的な環境と地域住民との交流の下で日常生活上の支援や機能訓練を行うものです。

家庭的な事業所とカフェのようなコミュニティスペース

「なごみの家しかた」に入ると、カウンターキッチンがある住宅のリビングのような空間が広がっていました。

ボクの自宅と同じぐらいの広さです。

高齢者の方々が和気あいあいと話しながら、作業をしている真っ最中。

来訪者に慣れているのか、ボクが入っても驚かれるわけでもなく、中を案内してもらいました。

奥にはお風呂場があり、入浴ができるようになっています。

トイレは多機能で広々としていますが、ほとんど住宅と変わりません。

ちょっと違うのは、リビングに宿泊できるようにベットの間仕切りがあるくらい。

ただ団地に住んでいる人が多いので、宿泊利用はほとんどないそうです。

同じ団地の住民からすると、自宅から隣の友人の部屋を訪れたぐらいの感覚でしょうか。

続いて見せてもらった隣のコミュニティスペース「しかたの茶の間」は、まるでオープンなカフェ。

おしゃれな装いで家庭的な事業所とは全く違います。

地域の交流の場として、開放的な空間です。

ただ、契約では飲食店などと競合するサービスは行えず、コーヒーぐらいしか出せないとのこと。

普段はイベントスペースとして主催事業を行っています。

空いた時間は幼稚園の保護者会が利用したり、地元の人がバスの待ち時間に立ち寄ったりしているそうです。

コミュニティスペース「しかたの茶の間」。絵画やちぎり絵は団地の人の作品。

四箇田団地中心部への進出のこだわり

宮川さんとはシェアオフィスのイベントでお会いして以来、福岡市の空き家活用セミナーで一緒に登壇させてもらうなど、ご縁があります。

ただ、直接取り組みの内容を伺ったことはありませんでした。

どうして四箇田団地に事業所を出したのか、地域と深くかかわろうとするのはどうしてなのかを伺いました。

ほんちゃん
なごみの家本体もここから1㎞ぐらいしか離れていませんよね?
なのに、どうしてわざわざ四箇田団地に新たな拠点をつくられたんですか?
宮川さん
きっかけは、四箇田団地の住民の利用者や相談が増えたことですね。なごみの家は、最後まで住み続けられる環境をつくたいという理念があります。遠くからわざわざ通うことなく、団地内で暮らしが成り立つような場所に拠点を設けたいというのは前々から思っていました。
宮川さん
四箇田団地は人が減り、高齢者が増えていますが、実は団地内にスーパーや銀行、郵便局、歯医者などが全部集まっています。
当時、スタッフも4人ほど団地に住んでいましたし、四箇田団地を暮らし続ける環境にできればと思って出てきました。
ほんちゃん
でも、なんで団地のど真ん中を選んだんですか?
利用者のアクセスがいいからでしょうか?
宮川さん
たしかに、それもありますね。
実はデイサービスが始まる時間を決めていません。自分の足で自分が好きなときに来て、好きなときに帰れます。
そうすると主体的に行動できるので、人間の尊厳の維持にもつながります。自分で考えたり、決めたりすると認知症って進行が遅くなるんです。
ほんちゃん
なんでもこちらで決めたり、やっちゃうと認知症が進んじゃうんですね。
宮川さん
もう一つは福祉に関係ない人たちにも、もっと来てほしいと思っていました。
ほんちゃん
コミュニティスペースをつくったのはそういう理由ですね。
宮川さん
ここはスーパーへの通り道なので、「なんだろ?」と眼が止まります。実際に何人も「ここはどういう場所?」と訪ねてきました。そうやって団地の方々の顔が見えたり、地域との関わりが生まれていますね。
ほんちゃん
おしゃれな空間にしたのは、若い人たちに来てほしいからですか?
宮川さん
福祉のイメージを変えたかったのと、誰でも困ったときに立ち寄れる場所を作りたかったんです。実際にまったく関係ない人が、「携帯の使い方がわからんから教えて」と入ってきたりしますよ。

コミュニティスペース「しかたの茶の間」の取り組み

ほんちゃん
コミュニティスペースでは具体的にどんな活動をしているんですか?
宮川さん
2、3ヶ月に1回、なごみカフェを開催しています。
専門家を呼んで、認知症予防の勉強会などをしています。
他には、団地の住民の方に講師になっていただいて、音楽教室やちぎり絵教室、折り紙教室を開催しています。 校区の食進会の方々と「おとな食堂」という活動もしています。
「なごみカフェ」で認知症予防の話を聞く人たち

四箇田校区の食振会と一緒に取り組むおとな食堂
ほんちゃん
地域の方々が先生になる取り組みはいいなぁ。地域とつながりながら、幅広い取り組みをされていますね。

四箇田団地中心部への進出の効果

ほんちゃん
団地の中心部に出てきてよかったですか?
宮川さん
部屋が小さくて利用できる人数が少ないので、正直運営は大変なんですけど、近くの幼稚園や保育園の子どもたちが立ち寄ってくれたりするんですよ。地域の方々と自然とコミュニケーションが図れるので、いい場所だと思います。
幼稚園児と交流するなごみの家しかたの利用者の方々
宮川さん
それとこれまでの利用者は病院や施設の紹介が多かったんですが、ここだとフラリと立ち寄ってくれた人の紹介で利用していただいたり、わざわざ四箇田団地に移住してくる人も出てきました。
ほんちゃん
この場所が営業にも貢献し始めているんですね。
宮川さん
地域との関わりを大切にしたいので、この事業所を特段PRとかはしていないです。相談内容によっては違うところがよかったりするので、それはフラットに紹介しています。
ほんちゃん
福祉の間口を広げたり、身近に感じてもらうことにもつながっているんですね。
宮川さん
福祉って当事者にならないと必要性を感じない人が多いんですけど、でも本当はいつ関わることになるかわからない身近なものなんですよね。そういうことも福祉から遠い人たちにも感じてもらえればと。
ほんちゃん
コミュニティスペースは交流だけでなく、福祉をより身近に感じたり、敷居を下げる役割も果たしているんだ。
小規模多機能ホーム「なごみの家しかた」を運営する宮川さん

さいごに

帰りがけに立ち話をしていると、 トイレットペーパーを一日何回も買いに来る90代のおじいちゃんの話になりました。

そういう人たちには、大丈夫かなとスタッフが話しかけて仲良くなったりしているそうです。

人通りが多いところに拠点を設けると、人の行動がけっこう見えます。

「受け身」で利用者だけに対応するのではなく、「主体的」に問題がありそうな地域住民の方々に関わっていることに驚きました。

自治会の役員から問題行動がある人の相談も受けたりするのだとか。

自治会費を払っておらず、自治会がサポートできない住民の支援にも関わっています。

仕事を超えた地域への関わり方に頭が下がります。

暮らしのセーフティネットとして、こうした縁の下の働き方にもっとスポットライトが当たってほしいと思いました。

特定非営利活動法人なごみの家しかた
http://care753.jp/
〒814-0176 福岡市早良区四箇田団地4棟105号
092-836-5442
ほんちゃん(本田正明)

地方生まれ、地方育ちの40代子育てフリーランス。都市計画の専門家ですが、地場企業や大学、自治体と公民学連携プロジェクトに携わっています。学生たちと農漁村での地域づくりやソーシャルビジネスを展開中。フィールドワーク大好き。福岡県糸島市在住。九州産業大学非常勤講師。

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