こんにちわ。ほんちゃん(@masa70)です。
糸島から背振の山々を眺めると、ふもとの里山付近に竹林が多いのが目につきます。
最近は、管理できずに放置された竹林が増えているそう。
糸島市も竹林オーナー制度を設けて、管理しようと試みているのだそうですが、なかなか広がっていません。
普段何気なく「素敵だなー」と眺めている森林の風景。その森の中では、イノシシやサルが増えて畑を荒らしていたり、竹林の侵食によって人が入れなくなっています。
仲間や農家の衝撃的な話を聞きながら、こうした森林のリアルな話は多くの人が知らないのでは?森林や林業のことをもっと学んで共有した方がいいんじゃないだろうか?と思うようになりました。
思ったのなら即実行。
ということで、糸島で森林管理に関わっている「糸島林研」の吉村正春さんを招いて、さっそくゼミ(勉強会)を開催することにしました。
この記事はそのときの記録を整理したものです。読んでいただいた方が、少しでも森林や林業に関心を持ってもらえたら幸いです。
「リンケン」というのは林業研究グループの略なんだそうです。
今から60年くらい前に林業の技術開発や経営研修、交流などを行うために設立された全国組織で、山主などの林業の後継者が参加要件になっているところも多いのだとか。
ボクが糸島林研代表の吉村さんに初めてお会いしたのは、「林業塾」というチェーンソーの使い方や伐採方法を教える一般向けの林業体験の場だったので、林研とはNPOのような組織とてっきり勘違いしていました。
林研も現在は2つの流れが生じています。1つは宮崎県や鹿児島県などの林業が盛んなところで続く昔ながらの林研、もう一つは都市部に近いところでIターンを受け入れたり、一般の方々との交流に力を入れる林研です。
最近では後者が増えているそうで、糸島林研も後者の林研で都市との交流などに力を入れています。
勉強会の参加者はまったく林業を知らない人も多かったことから、現在の福岡県や糸島市の森林のリアルな状況と糸島林研の取り組みを併せて紹介してもらいました。
森林は「齢級」といって5年単位の尺度があります。
福岡県の森林面積の状況をみるともっとも多いのは11齢級。つまり55年以上経過した森林がもっと多いそう。50年を超えた木は、材木として切る「主伐」の適齢期を迎えているんですが、主伐が進んでいるわけではありません。
それはなぜか?
主伐を行うと、森林法で植林が義務付けられているからなんだそうです。
林業は最初の5年間が下草刈りなどの手間やコストが一番かかります。そのため、植林をしなくて済む間伐を続けているのが現状。
主伐を行わないと病気などで枯れる可能性があるため、福岡県も主伐を行うよう補助金などの支援も行っていますが、現実的にはなかなか増えていないそうです。そのため、低い齢級の木がほとんどない状況です。
資料:福岡県地域森林計画書(H27)
糸島市は実はけっこう森林が多いところです。福岡県内で7番目の森林面積があります。
でも、出荷はほとんど行えておらず、わずかに出荷する材木も半分以上が間伐材なのだとか。
その原因として、これまで糸島には原木市場がなかったからだそうです。
福岡県内にはうきは、八女、豊前にそれぞれ原木市場がありますが、糸島市から遠いため、出そうにも経費が合いません。むしろ伊万里の原木市場の方が近いため、そちらにこれまで出荷してきました。
4年前にようやく糸島市と伊万里木材市場が組んで、「伊都山燦(いとさんさん)」という原木市場ができたのをきっかけに、地元に出荷できるようになりました。
糸島市では、荒廃林整備というカタチで間伐はかなり行なわれているのだそうです。
しかし、50年を過ぎた木を切っても、①林道などのインフラ整備が遅れていること、②木の搬出技術やノウハウがないことから、木を切っても材木として出せず、切り捨てざるをえない状況です。
伊都山燦では、1トンあたり3500円での現金買い取りに加え、2000円の商品券をつけて、出荷してもらえるよう動機付けを行っていますが、なかなか増えていません。
前述したように、都市型の林研では森林教育に力を入れています。
糸島林研も森林ボランティアを受け入れたり、林業のイロハを学ぶ「林業塾」や子どもも参加できる林業体験「森の健康診断」などさまざまな取り組みを行っています。ボクも子どもと一緒に「森の健康診断」に参加しましたが、森林の状況だけでなく、所有者の意識なども分かる楽しい取り組みでした。
上記の記事を読んでもらうとわかりますが、森の健康診断は一般の人を人工林に連れていき、森の健全度を調べる内容です。
もともとは愛知県矢作川流域で台風の被害が大きいので原因を調べようと始まった取り組みでしたが、糸島では、“森林を知ろう”という意味合いで行っています。
一方、「林業塾」では防護服を着てもらい、安全面に最大限配慮しながら木の切り方、林内作業車の使い方などを指導しています。
林業塾では、切った木は伊都山燦に出荷するところまで体験させているそうでかなり本格的です。チェンソーを使えるようになった人は、さらに次のステップとして、糸島市と糸島林研で協定を結んだ市有林で間伐の手伝いも行っているそうです。
チェンソーを使えるようになったとしても、実際の木は様々な形状をしていて、倒すには別途に技術が必要。その技術を積むための実践の場を提供しているのだそうです。
糸島林研クラブは森林組合の作業班として、間伐を請け負ってきたこともあり、伐採の技術を持っています。最近では伊万里木材からも仕事を請け負っている技術者集団です。
伊都山燦ができたことで出荷も可能になり、兼業・複業であれば山仕事も事業として成り立ちそうになってきています。
地元のことは地元でやりたいという思いから、吉村さんも「林研ワークス」という株式会社を別途設立しています。
森林所有者は糸島市の場合は、50ha以上の山を持っている人は数人しかおらず、ほとんどが零細。
福岡県全体のデータだと3ha未満の戸数が6割を超えているので、糸島も同じぐらいは零細だと思われます。
林業では森林の所有管理状況を「林班」という単位で把握していますが、糸島市の集落付近の林班(池のまわりとか)をみると、1区画が0.03haなどと非常に細かくなっています!集落附近のいわゆる里山の部分で所有の細分化が生じています。
昔は集落の人たちが共有林として持っていた入会地を処分する際に個人に分けたため、非常に細かい土地になっているのだとか。
現在は所有者が孫の代に移ってしまっているため、権利者が非常に増えていて全員の同意を取ることはほぼ不可能。土地をまったく動かせない状況になってしまっています。
竹林の侵食やイノシシなどの獣害もひどく、非常に悩ましい問題が生じているのもこのような土地です。
糸島市は国土調査が実施されているため、林班と土地の所有区分がほぼ一致します。他の地域では境界がはっきりしていないため、場所の特定すら難しいという、より深刻な問題を抱えているのだとか。
現在の70代の森林の所有者の方々は植林をした記憶のある最後の世代。伐採したいと思っている人も多いそうです。しかし、実際には身体が動かず実施できない状況です。
後継者の人たちは、地元に住んでいない人も多く、すでに山がどこにあるかも知らない状況になっています。
一方で、都市部の人で伐採をやってみたいという人はかなり多いそう。
そこの橋渡しをしてあげることができないだろうかと考えたのが現代版山守のコンセプトです。
山守制度というのは、都市部の大金持ちが所有する山の管理を地元の林業家に任せる制度だったようです。
現代版山守では、地元で山のことがわかる人間が所有者に代わって、効率重視ではなく長期的な取り組みとして地域の結びつきを意識しながら、森の管理を行うことを考えています。
森林組合も広域合併を繰り返したことで、集落の立場に立って考えることが難しくなっています。長期的な視点に立って、地域と関わる仕組みはつくれません。
もっと多様な人が、林業に関わることで、地域の山を守りたいというのが吉村さんの思いです。
【吉村さんの思い】
私たちは森林のことを「山」というが、最近の人は「森」という。見方や感覚も変わっている。
自然としての山、経営だけではなく山をみている。これからはそうした視点が大事になる。
ただ、林業専業では難しいので、副業、兼業で収入になる取り組みを構築したい。体験型ツーリズムのような取り組みも欠かせない。
そのためには、もっと多様な人材が関わってほしい。
静岡県や長野県では多様な業界からの参加があり、発想が大分違ってきている。
林業だけを考えると、出口が見えずに息が詰まってしまうが、農業など他産業との組み合わせを考え、安定的な収入が得られる方法を考えていきたい。
公益財団法人「水源の森基金」から、現代版山守の制度構築に向けた実証研究について、研究助成をいただき、ボクも林研クラブと一緒に調査させてもらうことになりました。
里山の所有者が細分化しているなど、森林を取り巻く環境は非常に厳しいものがありますが、実際に現地で里山の管理状況や竹林の侵食状況を調べる予定です。
今後の森林の管理意向などを地元の方々と話しあいながら、「現代版山守」の制度を具体化していきたいと思っています。