地域づくり事例

地域密着型の老人ホーム「グランドオーク百寿」

こんにちは、ほんちゃん(@hmasa70)です。

大阪の泉北ニュータウンに行ってきました。

団地全体で人口が12万人もいる一大団地です。

とはいえ、開発から40年以上が経過し、高齢化が進んでいます。

スーパーが撤退するなど、住宅地のエリアマネジメントの課題も山積。

そんな中、老人ホームのグランドオーク百寿さんが地域と密接に関わった運営をしていると聞き、話を伺ってきました。

そこには事業者と地域住民が無理せずできる範囲で協力しあう「互助」の営みがありました。

人口減少が進む地域では、収益が上がらずに撤退に追い込まれる話もよく耳にします。

これからの地域モデルとなりうる取り組みだと思ったので、紹介したいと思います。

高齢者の暮らしが大変な住宅団地

グランドオーク百寿は、泉北ニュータウンの茶山台にある老人ホームです。

最寄りの泉ヶ丘駅から徒歩15分くらい。

アップダウンや階段も多く、車を持たない高齢者にはなかなか厳しい環境です。

以前はこの場所がスーパーだったそうですが、5〜6年前に撤退したのだとか。

その後、別のスーパーの話も立ち消えになり、建物の前にゴミが捨てられたり、環境の問題も生じていました。


WONDER SENBOKUのコースマップより

建設前に地元の意見を聞いてまわる

「当時は老人ホームをつくるというと、地元から反対がありましてね」

と話をしてくれたのは、施設長の山口大輔さん。

施設長は年配の人だと勝手に思い込んでいたので、ボクと同世代だったことにビックリ。

「徘徊者が出るんじゃないかとか、いろいろと心配されました」

やっぱり商業施設の後には、商業施設がほしいというのが地元の本音だったようです。

正確にいうとグランドオーク百寿さんは、地域密着型特別養護老人ホーム。

地域密着型といっても、条件は利用者が堺市在住の人に限定されることと、29人以下の小規模であるというぐらい。

「ほんとうに地域密着したことが何かできないかと思って……」

集会施設などに通いながら、地域の方々がどんなことに困っているか、何があったらいいのかなどを建物を立てる前に聞いて回ったそうです。

その中で聞こえて来たのは、以下のような声だったそうです。

【地元の声】

  • 買い物が不便
  • 気軽に食事できる場所がほしい
  • 子どもたちが遊べる場所がほしい
  • お弁当を食べられる場所がほしい

気配りのあるカフェ

グランドオーク百寿の1階には、カフェがあります。

「地元の要望すべてに答えられるわけじゃありませんが、カフェなら私たちでもできるのでは」

と始めたそうです。

とはいえ、法人としてカフェの運営経験があったわけではありません。

スターバックスで働いていた友人が、たまたま辞めていたで協力してもらったそうです。

ボクも利用したのですが、席のゆとりがあり、開放的で落ち着いた空間でした。

ランチタイムは待ち時間が出るほどの人気なのだとか。

でも、若い人だけでなく年配の女性が一人でも、スタッフと話しながら食事をしているのが印象的でした。

「その方は隣のマンションに住む方だと思いますよ。多いときは朝、昼、夕方の1日3回利用してくれます」

スタッフと連絡先の交換もしていて、来ないときは電話したり、ノックをしたり、安否確認をしているそうです。

このあたりは、老人ホームならではの気配りやサポートだなと感じました。

ちょっとした買い物ができるインショップ

カフェの一画に、ちょっとした買い物ができるインショップもあります。

地域からの要望の1つに「買い物が不便」という声がありました。

「コンビニほどの品数は無理ですが、入居者も日用品を購入するので場所をつくりました」

お菓子や文房具もおいてあり、近所の子どもたちも利用しています。

毎日ではありませんが、野菜も定期的に販売しているそうです。

互助で運営されるインショップ

「実は、レジ係は地元のボランティアがしているんですよ」

シフト表も管理はしておらず、ボランティアが入れる日を勝手に記入しているそうです。

実際にノートを見せてもらうと昼、夕方の1日2交代ですが、来月まで埋まっていました。

「リーダー格の人は『前のスーパーがなくなった原因は自分たちにもあるから、今度の場所はなくならないようにしたい』といってくれていますね」

空いた日があると、「しょうがないから自分が入ろう」と名前を書いてくれるのだとか。

メンバーには子どもと一緒にレジに入る子育て中の主婦の方もいるそうです。

「建物をつくる前に地域と関係性をつくっていたのがよかったですね。建物ができてから協力してほしいといってもこうした関係性はできなかったと思います」

地域の人たちが自分たちの場所と思い、誰もマネジメントせずに回る仕組みができていることが驚きでした。

「卸業者は品物を納品だけして、ボランティアが1回入るとランチやケーキセットを1食提供しています」

施設側は場所代は取らずに、その1食分が収益となるだけ。

「収益より続くことが大事なので。入居者も使いますし。お互い助かっています」

「逆にボランティアに賃金を払おうとしたこともあるんですが、そこまで責任を負いたくないと断れまして」

たまにレジカウントのミスなどはたまにあるそうですが、人件費に比べたら微々たるもの。

お互いに無理をしない、させない関係を上手に構築していました。

地元のたまり場となった施設

カフェは夜間営業していませんが、予約をすれば料理なども提供しています。

「PTAが校長先生の送別会を開いたり、こども会のクリスマスは毎年開催していますね」

「幼稚園、小学校、中学校のそれぞれの謝恩会があります」

地元の人たちがよく利用してくれているそうです。

ラジオ体操を一緒にして、みんなで朝ごはんを食べる取り組みもしているのだとか。

「うちには看護師がいるので、怪我した子どもが手当してほしいとくることもあります」

「24時間誰かがいて開いているのも強みですね。朝6時にスマホのアラームを止めて欲しいと駆け込んできた人もいましたよ」

ほんとうに地域に密着していて、駆け込み寺のように利用されています。

「地元の一人暮らしの方が、お正月に『ちょっとしたゼイタク』といってショートステイすることもありました」

老人ホームのイメージさえも変えてしまっている、そんな印象を受けます。

自分たちができることを少しだけ、地域にじみ出す。

そんな取り組みがお互いの負担も少なく、継続していけそうです。

これからもっと地域にこうした取り組みが増えてほしいと感じる場所でした。

ほんちゃん(本田正明)

地方生まれ、地方育ちの40代子育てフリーランス。都市計画の専門家ですが、地場企業や大学、自治体と公民学連携プロジェクトに携わっています。学生たちと農漁村での地域づくりやソーシャルビジネスを展開中。フィールドワーク大好き。福岡県糸島市在住。九州産業大学非常勤講師。

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