地域づくり事例

NPO法人小杉駅周辺エリアマネジメントの10年の取り組み

こんにちは、ほんちゃん (@hmasa70) です。

住宅地エリアマネジメントの現場の様子を学びたいと武蔵小杉に行ってきました。

武蔵小杉といえば、首都圏の人気の住宅街。

実は地元の人たちがNPO法人を立ち上げ、エリアマネジメント(以下、エリマネ)に取り組んでいる地域でもあります。

住宅地のエリマネは、どこもまだ取り組みが始まったばかり。

武蔵小杉はまちびらきから10年経ち、どのように成熟しているのか気になっていました。

住宅地のまちづくりの課題について、そのリアルな状況を伺いました。

武蔵小杉周辺の開発と状況

武蔵小杉は神奈川県川崎市中原区にあるエリアです。

鉄道が5路線(JR東日本3路線、東急2路線)も乗り入れていて、渋谷まで特急だと13分で通えるという利便性。

2007年以降の駅周辺開発で、タワーマンションが12棟(7,000戸)も立ち、人口が急激に増加しています。

武蔵小杉駅周辺は、もともと企業の工場やグラウンドの跡地だったそうですが、周辺には昔からの商店街や住宅地が広がっています。

当初は元からいる地域の方々が中心となってNPO法人のエリマネ組織を立ち上げ、今では理事の半数がマンション住民で運営されています。

新旧のコミュニティが一緒になった珍しい組織です。

この地域のまちづくりに長らく関わっている野口さん(野口都市研究所)にご紹介していただき、訪問させてもらいました。

NPO法人小杉駅周辺エリアマネジメントの公式サイトは以下のリンクから。
・NPO法人小杉駅周辺エリアマネジメント

武蔵小杉駅周辺エリアマネジメントが関わるイベント

NPO法人小杉駅周辺エリアマネジメントの事務局は、中原区役所の一角にあります。

当日は理事長の安藤さんと事務局長の塚本さんの2人が対応してくださいました。

そもそも武蔵小杉駅周辺にエリマネ組織ができたのは、川崎市が地域と始めたまちづくり協議会が発端。

一挙に15,000人の住民が増えると町内会ではとても対応しきれません。

新しい住民を受け入れるためのまちづくり組織が必要だということで、地元の商店街や事業者、住民が中心となってエリマネ組織を立ち上げたそうです。

2007年の発足当初は早朝の清掃や自転車の管理といった地道な活動からスタートし、現在では実に多様な取り組みを展開しています。

一番大きな取り組みはハロウィンのイベントであるコスギフェスタ。

地域住民が参加するイベントで、昨年は参加者が2日間で8万人を超えたのだとか。

川崎駅周辺にもハロウィンのイベントがあるのだそうですが、コスギフェスタはあくまでも子どもたちが主役。

家族で楽しむイベントになっています。

また、夏にはこすぎ盆踊り大会を開催しています。

本来、盆踊りは町会(町内会)の行事。

ただ、再開発のために小杉3丁目は4年間、小杉2丁目では20年間も盆踊りを開催できませんでした。

開発がようやく終わり、盆踊りを再びやりたいという声が出てきたそうですが、町会だけではなかなか難しい。

小杉2〜3丁目の町会、商店街、エリマネ組織が一緒に取り組もうと2015年に復活させたそうです。

町会とマンションが一緒にまちを盛り上げたことが注目され、NHKのクローズアップ現代でも取り上げられました。

コスギんピックは当初、慶応大学の学生グループの持ち込み企画だったそうです。

地域運動会としてスタートしたものが、今では消防署や警察署も参加したり、障がい者スポーツを楽んだり、年々規模を拡大しています。

新しいアイディアや発想を取り入れて、積極的に活動を展開されているのが印象的でした。

小杉駅周辺エリアマネジメントの活動

イベントだけだと、商業地のエリマネと変わらないのでは?と思われるかもしれません。

エリマネ組織が発足以来、取り組んでいるのがパパママパークこすぎという事業。

子育て中のママたちのコミュニケーションやネットワークづくりの場を提供しており、毎回70人以上が参加する人気の事業です。

開催から10年経ち、最初のお母さんがスタッフで参加してくれたり、マンションだけでなく地域との交流の場になっています。

会員マンション共益検討会というマンション同士の交流も行っています。

共益費や大規模修繕などのマンション共通の課題に一緒に取り組んでいます。

また、将棋や囲碁などのサロン活動もさかん。

シニアの人たちが外に出られない、友達が作れないという声から、囲碁・将棋などのサークル活動を募集したところ、 60人ぐらい集まったそうです 。

今では、健康麻雀やゴルフ、写真やヨガ、お酒、食べ歩きなどさまざまなサークル活動が生まれています。

サロン活動の事務局運営は大変じゃないですか?と聞いたところ、

「実は、サロン活動を募集すると、必ずリーダーとして運営や世話をしてくれる人が何人か現れます」 とのこと。

全戸配布での会員募集は事務局で行うものの、立ち上がった後の運営や勧誘などは各サークルの世話人が2~3人で行ってくれています。

住宅地エリアマネジメントの課題

上記の話だけ聞くと、実に理想的なまちづくりが進んでいると感じます。

でも10年も経てば、いろいろと問題は出てくるもの。

一番大きな課題は資金源の確保です。

開発当初は川崎市から各マンションデベロッパーに、エリアマネジメント組織への拠出について、管理規約への記載や重要事項説明をお願いしていたそうです。

そのため、エリマネ組織が活動を行うための安定的な収入がありました。

しかし、2016年に国交省でマンション標準管理規約からコミュニティ条項が廃止されたことを契機に、エリアマネジメント組織の会費徴収を管理組合が行うことが問題視されるようになりました。

①エリマネ組織の活動が自治会的で、②任意退会できず強制徴収とみなされる可能性があります。

管理規約の内容もよくみると、マンション毎にマチマチ。

裁判などのリスクを考えると一括徴収は難しいということで、2019年4月からは任意で個人会員の募集に切り替えたそうです。

ただ任意の会費だと、住民から加入メリットを求められるなど、なかなか会員数は伸びません。

安定した収入源がなくなるので、当然、事務局運営も不安定に。

エリマネ組織では、マンションの自治会的な活動も担っているため、継続的な活動のために行政支援も求めているそうです。

ただ、NPO法人という組織上の問題もあり、なかなか議論が進んでいないのだとか。

マンションの管理規約にしても、エリマネ組織の組成についても、後から変更が困難なものばかりです。

住宅地のエリマネを進める場合、事前の組織や規約づくりはよほど丁寧に行わないと後で大変なことになると感じました。

武蔵小杉駅周辺エリアの公開空地の悩み

武蔵小杉駅周辺エリアのもう一つの課題が公開空地です。

実は、武蔵小杉駅の周辺には公共の公園や緑地がほとんどありません。

駅周辺の広場や緑地は全てマンションなどの敷地の一部。

一番の市民の憩いの場は、イトーヨーカドーの屋上庭園だったりします。

公開空地は私有地の一部を、一般の人々が利用できるように公開することで、建物の容積率が緩和され、戸数などを増やすことができる制度です。

まちづくりミーティングの際、公開空地があまり利用されておらず、薄暗くて怖いのでもっと有効活用できないだろうかという相談がありました。

そこでお散歩マップと合わせて、公開空地を紹介しようとしたところ、「私有地だから入ってもらっては困る」、「草木を持ち帰る人がいる」、「芝生が荒らされる」などと猛反発されたのだとか。

自分たちのマンション管理組合の費用負担で維持している空間を、外部の人たちに勝手に荒らされたくないという気持ちはわからなくもありません。

公開空地による容積率の緩和などのメリットはデベロッパーが享受しても、住民の方々がメリットを感じない場合が多いからです。

武蔵小杉駅前の広場などでは、毎日数万人が利用しており、通路が痛むのも早かったり。

そうした場所をマンション管理組合で維持管理しつづけるとするのはかなりの負担です。

通行者の安全面や景観面での一体感などをどう守り続けるのか。

持続性を考えると、自治体も含めて一緒に検討していかないといけない課題だと感じました。

公開空地とはビルやマンションが建設される際、一定の土地を一般の方が日常的に自由に通行し、利用できる場所として開放することで、建物の容積率や高さの制限が緩和される制度(建築基準法総合設計制度)です。公開空地の清掃や維持管理は所有者が行うことになっています。

住宅地のエリマネ組織についての考察

武蔵小杉駅周辺のエリマネ活動の話を聞き、ボク個人が感じたことをまとめたいと思います。

1.住宅地のエリマネ組織は必要

まず、最初に住宅地にエリマネ組織は必要だと感じました。

特に新興住宅地の場合、まちびらきの時点で地域コミュニティがほとんどないのが現状です。

小規模な開発であれば、周辺の自治会などがコミュニティ形成を協力してくれる場合もありますが、従来の戸数を超えたり、マンションの場合は困難です。

現在の若い人たちは、行政サービスへの依存が高く、自治や互助の感覚や意識が薄かったり。

また、内部のコミュニティだけでなく周辺の自治会とのコミュニケーションも必要になります。

自立した自治活動をいきなりゼロから生み出すのは難しく、ヘタをすると周囲との軋轢を生んでしまいます。

中長期に渡り、エリマネ組織を継続すべきかは異論があると思いますが、自立した自治活動の立ち上げの支援は必要不可欠だと感じました。

2.事前の制度設計が重要

今回、痛切に感じたのは、住宅地のエリアマネジメントは最初の制度設計が非常に重要だということ。

住宅地では、デベロッパーから居住者へ所有権が移り、必然的に関係者が増えます。

また、空間の管理についても一人ひとり考え方が違うため、意識の共有ができず、交渉が複雑化、長期化し、調整コストが膨大になります。

会費などの徴収の仕組みや金額なども上手に設計しないと、後で揉めるポイントになりかねず、エリマネ組織の運営そのものを脅かしかねません。

3.行政が関与し続ける仕組みの構築

武蔵小杉周辺エリアでは、公園などがなく、行政がハード面のまちづくりにおいてほとんど関与しない形になっています。

初期段階はうまく機能したとしても、街の維持やメンテナンスコストをマンション住民が負担せねばならず、中長期で考えた場合、持続性に疑問を感じました。

公開空地で事故が起きた場合の責任の所在や安全面の不安もあります。

また、維持管理のコストが拠出できなくなれば、街の景観も維持できません。

街の顔となる部分やインフラに関しては、すべてを民間に任せるのではなく、自治体が関与しつづける仕組みも必要だと感じました。

さいごに

武蔵小杉駅周辺のエリマネの取り組みは、地域住民や商業者、事業者、行政が一緒に取り組んでいて、実に理想的です。

しかし、過度に民間主体に移行しすぎた結果、民間だけでは対応しきれない課題が生じている印象を受けました。

まちづくりにおいても、すべてを民間に任せるのではなく、行政も負担できる範囲を決めた中で、継続的な関与をしてほしいと感じました。

ほんちゃん(本田正明)

地方生まれ、地方育ちの40代子育てフリーランス。都市計画の専門家ですが、地場企業や大学、自治体と公民学連携プロジェクトに携わっています。学生たちと農漁村での地域づくりやソーシャルビジネスを展開中。フィールドワーク大好き。福岡県糸島市在住。九州産業大学非常勤講師。

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