「だれでも起業できる農産加工実践ガイド」を読む

誰でも起業できる農産加工実践ガイドの表紙 セレクト

こんにちは、ほんちゃん (@hmasa70) です。

甘夏のジュースやかき氷シロップ加工でいつもお世話になっている「職彩工房たくみ」さん。

その代表の尾崎正利さんが最近、本を出しました。

タイトルは「だれでも起業できる農産加工実践ガイド」。

地域づくりの現場では農家や漁師とも接する機会が多いので、加工の話はわりと身近です。

ボクたちも少なからず加工に関わっているので、最低限の知識は身につけておきたいもの。

食品加工の現場の話がふんだんに載っているので、自分たちの取り組みと照らし合わせて振り返るいい機会にもなりました。

地域に関わる人にとって、「加工」はますます身近なテーマになりそうなので、ご紹介したいと思います。

自分らしさの表現としての農産加工

本の冒頭には「いまどきの農産加工」として、いくつかの事例が出てきます。

もともと農産加工といえば、「6次産業化」という言葉があるように、公的機関の働きかけによって、農家などの生産者が取り組むものが主流でした。

でもそのトレンドは、最近だいぶ変わっているようです。

カフェなどの事業者だったり、集落支援員から加工品づくりに取り組む人もいるそう。

福岡県朝倉郡の「街道カフェ やまぼうし」さんの例が取り上げられていますが、誰かのリーダーシップではなく、家族の合意で始めたのだとか。

カフェが農産加工をはじめるというのも面白いですが、家族のメンバーがそれぞれの持ち場を持って独自に取り組むというエピソード自体がいまどきだなと感じます。

よく考えてみれば、糸島甘夏堂の取り組みも似ています。

誰かの働きかけによって始めたわけでもなく、強力なリーダーがいるわけでもありません。

地域のために学生とできそうなことを一緒に考えているうちに、自然と始まったもの。

今でも学生たちが興味ある分野を分担して、プロジェクトに取り組んでくれています。

尾崎さんは本の中で、「自分らしさを表現する手段としての農産加工」が増えてきたと書いていますが、それだけ一般の人にとっても加工が身近な存在になってきているのだなと感じました。

糸島甘夏堂の店舗と学生たちの様子

野辺・福の浦地区の地区計画と地域づくりvol.4(加工編)

2019年7月14日

加工の大変さは知識も必要

とはいえ、農産加工はまだまだハードルが高いと感じるのも事実です。

包装容器の選び方や真空包装機の使い方など、加工技術について詳細に紹介されていますが、大切なのは技術的な話だけにはとどまりません。

殺菌や水分活性、phなどの化学的な知識も必要になります。

ボクは理系出身なのでこの手の話は大好きなのですが、知識があればこと足りるわけでもありません。

本の中でも特定の菌を死滅させる「殺菌」と、すべての菌を死滅させる「滅菌」の違いのエピソードが出てきます。

安全面を考えたら120℃、4分の加熱で全部「滅菌」すればいいのでは?と考えてしまいがち。

でも安易にそうしてしまうと食感や風味、フレッシュ感などが失われ、商品価値がなくなってしまったりします。

安全性や安心感を損なわずに、どれだけおいしいものをつくれるか。

加工の難しさや奥深さは、こうした知識や技術、市場感覚などの組み合わせにあるように思いました。

保存処理の大切さ

本の中盤で紹介されている保存処理の大切さは、自分たちも身を持って体験したのでよくわかります。

当初、甘夏加工をお願いした際、恥ずかしい話、ボクたちはお金がありませんでした。

補助金などはもらわずに、ボクも学生も身銭を切りながら、自分たちでできることを模索していたからです。

そのとき尾崎さんにアドバイスしてもらったのが、「自分たちで保存処理をしては?」ということ。

加工に関してまったく無知だったので、 保存処理のこと自体も知らなければ、自分たちで作業を手伝えることも知りませんでした。

加工プロセスを分けたり、分担できるという知識を持つだけでも、かなり加工のハードルは下がります。

本にも記載されていますが、みかんであれば皮と果汁、じょうのう膜(果肉を包む小袋)に分けて冷凍保存ができます。

野辺・福の浦地区は半農半漁の集落だったので、みかん農家さんが漁業用の冷凍庫も管理しているので、場所を提供してもらえるラッキーさもありました。

保存処理を自分たちで行うことで、加工費用を抑えられたことはとても助かりました。

それと結果的にですが、保存処理作業を自前で行うことで、自分たちが商品をつくっている実感を持てたことも非常に大きかったです。

ゆずの保存処理の仕方(出典:だれでも起業できる農産加工実践ガイド)
ゆずの保存処理の仕方(出典:だれでも起業できる農産加工実践ガイド)

価格設定は常に悩む要素

商品の値決めは、正直、いつでも悩みがつきません。

本のアドバイスにあるように、下限~上限を自分たちがどう捉えるかが重要になります。

お土産品になるようしたいのか、手軽に買ってもらいたいのか。

意識するお客さん次第で、ラベルデザインやかけるコストも変わってきます。

ボクたちも初年度は赤字にしないことを考えるだけで精一杯でしたが、2年目に入り販売量であったり委託販売の活用など、値段設定の条件も増えてきました。

本では、バザーでのうどん販売や直売所・道の駅などでの委託販売を想定したシミュレーションが紹介してあります。

ボクたちはバザーのような原材料費高めの値段設定はしませんでしたが、人件費は当初より削らざるを得ませんでした。

そう考えると現時点ですでに、15~20%の手数料を払う委託販売はなかなか難しそうです。

でも値段をそれほど上げたくもないので、逆に現地でお客さんの顔を見ながら、地域を知ってもらう直販に力を入れた方がいいと背中を押してもらいました。

学生たちと去年の経験と本を参考にしながら、プロジェクトを進められるのは非常にありがたいです。

甘夏かき氷の収支計画や実際の販売結果ついては、note(有料記事)で紹介しています。(noteの売上は今後のプロジェクトに活用させていただきます)

地域と外をつなぐ農産加工の可能性

自分が農産加工に関わるとは思ってもみませんでしたが、実際に販売したり結果が伴ってくると、少しづつでもいいので増やしていきたいという欲が出てきます。

甘夏プロジェクトも2年目に入り、取り扱う柑橘の種類や量も増えてきました。

去年のように保管場所や加工場所も地元に甘えてばかりでいいのか、気になります。

本の最後には、加工所をスタートさせるためのプロセスが整理してありますが、読みながら自分たちはどこを目指そうとしているのか、考えさせられます。

加工に取り組むこと自体も勇気が入りましたが、定常的に生産拠点を持つというハードルはさらに高いものです。

とはいえ農産加工を通じて、地域の人たちと何度も接する機会が生まれ、これまで以上に関係が深まったことを実感しました。

地域の柑橘という「モノ」と媒介に、加工に携わった大学生たちだけでなく、来訪してくれたお客さんたちともつながりが生まれています。

これも加工がつないでくれた縁。

今後、生産拠点をつくれるかどうかはわかりませんが、少なくともこれから先も農産加工に関わりつづけていきたいと思っています。