こんにちは、ほんちゃん(@hmasa70)です。
普段は、PPP事業(官民連携)やコミュニティマネジメントのお手伝いをしています。
いきなりですが、施設の老朽化や将来の財政見通しの不安から、公共施設の再編はどの都市でも課題になっています。
ただ、経済効率性や合理性だけで、統廃合に取り組む自治体が多いのも実情。
施設を減らしながらも、利便性を高めて地域づくりや活性化に貢献できないか?と常々考えていました。
そんな中、ボクが住む糸島市初地域周辺の公共施設再編プロジェクトを手伝う機会をいただきました。
関わりだしてから1年が経過し、少し内容を報告できるようになったのでご紹介します。
地元発意がきっかけで生まれた連携事業
そもそものきっかけは、地元の人たちからの相談。
「初地域の公共施設再編について、地元案がつくれないか」という内容でした。
資料を見せてもらうと、初地域の公共施設再編がリーディングプロジェクトに位置づけられていました。
地元のことは意外と知らないものです。
自治体から「地元が動くきっかけをどうつくるか?」という相談はよくありますが、その逆はあまりありません。
地域に住む人の立場で仕事がしたい、と思って独立したので、地元からの相談はうれしいかぎり。
反対運動ではなく、「行政の人たちと同じ目線で議論するために案をつくりたい」という姿勢に共感したので、「お手伝いします」とすぐに返事をしました。
糸島市の糸島市公共施設等総合管理計画、第1期アクションプランは以下のサイトからダウンロードできます。
(※初地域のリーディングプロジェクトは97ページに記載)
・糸島市公共施設等総合管理計画 第1期アクションプラン
大学連携プロジェクトのチームづくり
前職時代に公共施設の再編にも関わっていましたが、ボクの役割は全体マネジメントやプランニングがメイン。
建築設計に関しては素人です。
具体的な再編案をつくるためにはチームが必要です。
いろいろ考えた末、九州大学という第三者の立場で再編案を考えてもらうことはできないだろうかと思い至りました。
地元案ではありませんが、地元の方々にも「それをベースに地元案が考えられる」と了解いただき、ヒアリングなどを支援してもらうことに。
ちょうどその頃、住宅地エリアマネジメント研究会(西部ガス主催)で九州大学建築学部の黒瀬先生とご一緒させていただいていました。
相談したところ、「合併市町村の地域拠点周辺のまちづくりと公共施設再編のあり方のモデルになる」と協力してもらえることに。
さらに、「施設の設計については、志賀先生にも協力を仰ぎましょう」とその場で声をかけてくれました。
志賀先生は遠賀町や岡垣町の空き家等対策計画で、お世話になった方。
まちづくりと施設計画の両面から支援していただけるのは心強いかぎりです。
また糸島市も公共施設マネジメント推進室が、協定大学との課題解決型研究事業の研究テーマとして挙げてくれました。
採択によって活動費が確保できただけでなく、建築図書を借りたり、施設の現状の確認もでき、市の政策へのプレゼンスも高められたのはとてもありがたかったです。
令和元年度「糸島市協定大学等課題解決型研究事業」の研究成果については、下記のサイトで公表してあります。
「糸島市公共施設等総合管理計画及び第1期アクションプランの取組に対する理解促進と『志摩初地域施設再配置事業』を契機とした地域活性化策について」というテーマで研究事業のお手伝いをさせてもらいました。
・令和元年度「糸島市協定大学等課題解決型研究事業」の研究成果
思い出マップで見出した地域のアイデンティティ
初年度の目標は、基本構想やコンセプトをつくること。
そのためには、初地域のことをもっとよく知る必要があります。
地域の実態把握と整理方法として、黒瀬先生が岩手県大槌町の吉里吉里地区で取り組んだ「思い出マップ」というツールを紹介をしてくれました。
これは地域の変化の様子を「住民の声」というカタチで吹き出しコメントでまとめたもの。
地元の人たちに伺った話が、地理的にも共有できるので便利です。
さっそく初地域でもつくろうと、学生たちとヒアリングに回りました。
地元の協力もあり、旧志摩町の元町長をはじめ、10団体以上の方々から話を伺えました。
学生たちが作成してくれた思い出マップをみると、地域のなりたちがよくわかります。
主なポイントを抽出すると以下の通り。
- 旧町時代よりもっと前から、初地域は交通の要所だった
- 農産物直売所の前身である朝市の拠点があった
- 6面のバレーコートがあり、バレー大会が交流の場になっていた
- 食堂や駄菓子屋などが地域のたまり場だった
- 朝市のプロムナードは、クラフトフェスなどのイベントに利用されている
この中で一番驚いたのは、旧志摩町役場の場所に6面のバレーコートがあったこと。
志摩町時代から行政区対抗のバレー大会が続いているそうです。
今でも9月のバレー大会には、わざわざ帰省して参加する人もいるのだとか。
バレー自体も順位を競う「競技バレー」と親睦のための「親善バレー」の2つがあるそうです。
よく話を聞くと、初地域には大きなお宮やお祭りがありません。
バレー大会自体が地域のアイデンティティであり、住民同士のコミュニケーションを図る場になっているようでした。
それともう一つのエポックが1986年に始まる「朝市」です。
当時は、下記のような仮設テントでの営業が行われていました。
オープンが朝5時と早かったにも関わらず、福岡市近郊から多くの人が訪れ、渋滞は数キロに及んだのだとか。
1996年には朝市専用のプロムナード(屋根)が公園に整備されるほどです。
ただ朝市の機能は、徐々に直売所「志摩の四季」(1998年)に受け継がれて行きました。
一方でプロムナードは、クラフトフェス(2007年)などのイベント会場として、新たな役割を担っています。
住民や行政とのコミュニケーション
こうして初地域の変遷をたどると、「食」「スポーツ」「クラフト」というテーマが要素として浮かんできます。
まずはこの3テーマで学生たちがチームをつくり、地域づくりのコンセプトを考えることに。
それぞれのチームがテーマに沿って、「こども・大人食堂」をコアとしたプランや防災ホールと武道場を兼ねた施設、九大生が教える「まちの図工室」などを提案してくれました。
案を地元や行政の担当者に投げてかけてみると、いろんな意見が出ます。
主要なものを抜き出すと、以下の通り。
- 市街地ではないので、常設の「食」の機能は難しいのでは?
- スポーツ機能は総合運動公園に集約するものとどう異なるのか?
- バレー大会には新しい住民が入りにくい雰囲気がある
- クラフトの来訪者は市外の人ばかりで地元と交流はほとんどない
初地域はもともと農村集落だったのですが、中心部には大型商業施設ができ、九州大学も近くに移転したため、今でも住宅地開発が行われ、人口も増えています。
住宅地の人たちが自治活動の中心的な役割を担うなど、新旧住民が一緒に活動をしているそうですが、まだまだ壁もあるようです。
今回のプロジェクトが新しい地域住民の参加を促すための、間口を広げる役目もあることを感じました。
とはいえ、施設のエントランスに大屋根をつけようという提案は高く評価されました。
もともとは雨天時の屋外スポーツの場としての提案でしたが、利用は屋外イベントや災害時に炊き出しなど、用途はスポーツに限りません。
朝市のころから地域のシンボルだったプロムナードも老朽化しており、代替機能も必要になっています。
新たな地域のコミュニケーションの場としてどう利用してもらえるか、今後はもっと可能性を掘り下げていきたいと思います。
さいごに
こうして連携プロジェクトが進められるのも、地元の方々や行政、九州大学の先生や学生たちの協力おかげです。
まったく手探りだった地域づくりの方向性が、少しずつ見えてきたと思っています。
今年度は新4年生や院生も加わり、チームも20人近い規模になりました。
ヒアリングや現地調査も熱心に行ってくれるので心強いかぎりです。
コロナウイルスの影響で、これから地元の方々とどう意見交換するかなどの課題もありますが、地道に丁寧に取り組んでいきたいと思います。