こんにちは、ほんちゃん(@hmasa70)です。
福岡県糸島市の野辺・福の浦地区での地域づくり活動報告の2回目です。
前回は地域の状況や土地利用の課題などを踏まえた計画づくりを紹介しました。
ただ、計画やルールをつくるだけでは地域づくりは動きません。
ルールが適切な運用に向けた支援だったり、事業のコーディネートやマネジメントが必要になります。
今回は計画づくりのその後と合わせて、新たに動き出した地域づくり事業の一端を紹介します。
野辺・福の浦地区は事業者の関心が高い土地柄
野辺・福の浦地区で策定している地区計画は、土地利用を緩和するもの。
とはいえ、人口減少が進む中でそう簡単に移住者は来てくれません。
第1回にも書きましたが野辺・福の浦は自然公園法の規制が厳しいので、新しい住宅開発には不向きです。
空き家などの古民家の利用はできますが、なかなか物件は出てきません。
一方で海辺の景観が美しく、釣りやレジャーなどの来訪者は多いので、事業者の関心は高い土地柄。
すでにいくつかの事業者がいることからも伺えます。
土地利用の法規制の限界
いざとなったら土地が売れる、というのは地元の人にとって大事な保険です。
葬式の費用や空き家の管理などで、子どもたちに負担をかけたくないという声も聞きました。
だからといって誰にでも売ってもいいかというと、そうではありません。
ハイシーズンに騒音や渋滞、ゴミなどで地域に迷惑をかける事業者もいます。
地元の人にとって一番悩ましい課題は、法律では解決できないものばかり。
事業者との付き合いやコミュニケーションを図りながら、一緒に最善策を探るしかありません。
ただ、中には自治会にまったく顔を出さない事業者もいます。
地域とのコミュニケーションが不足すると信頼関係が構築できず、地元に不安や不満も積もります。
そのため、新しくくる事業者や移住者には、自治会の会合に顔を見せて信頼関係を構築してほしい、というのが地元の思いです。
これから地域や田舎で事業を営もうとしている人は、そうした地元の考え方を知っておいてほしいです。
事前協議という自主ルールづくりの必要性
ただ地域との付き合いも強制はできません。
でも事業を始めたり、移住する前に一度は顔合わせをしてほしいもの。
野辺・福の浦には土砂災害の危険区域も多いため、災害時の連絡体制や協力関係も必要です。
そのため、土地や建物の所有者が売却や賃貸を行う前に、関係者がまちづくり協議会に参加し、事前協議を行うことを提案しました。
「郷に入っては郷に従え」という言葉がありますが、外部の人には地域のルールそのものがよく分かりません。
自治会の存在そのものを知らない事業者もけっこういます。
一方で地元はきちんとした企業や組織であれば、事前に自治会に説明があってしかるべき、という考え。
こうした問題の根底には、お互いの情報不足から生じるすれ違いがあります。
外部の人に売ったり貸したりする前に、まちづくり協議会と事前協議する機会を設けて、不要な軋轢を防ぎたいと考えています。
土地や建物の所有者はほとんどが地元の人で、戸数も53世帯と少ないので、きちんと説明していけば、管理は難しくありません。
強制力はない自主ルールですが、地元の人や土地所有者の理解と協力を得ながら進めています。
自主ルールをつくることの葛藤
実は、自主ルールの提案については区長(当時)や役員とかなり議論になりました。
区長は地元の事業者と熱心に交渉したり、地区計画についても市役所と協議をはじめた人。
まちづくり協議会での事前協議は、所有者の制約にならないか、役員にも住民にも負担が重すぎないかと気にしていました。
とはいえ、周辺地区では自治会に加入しない住民が増え、トラブルが生じている話も聞きます。
地区計画による土地利用の緩和とセットで行わないと、後から実施するのは困難です。
一方で役員からは、新しく来る人には野辺・福の浦の歴史やしきたり、マナーをきちんと知ってもらうべきではないかという話も出ました。
地域を持続させるために、地域との関係をきちんと構築して、一緒に長く暮らしてくれる人たちに来てもらいたい。
そのためには風景など地域のよい面だけでなく、大変な面だったり、地域のこれまでの苦労も知ってほしいという思いです。
地元の意向を踏まえ、単にルールだけつくるのではなく、読み物として暮らしのガイドブックのようなものをつくれないかと検討しています。
こちらも具体化したら、ご紹介したいと思います。
【暮らしのガイドブック構成案】- 区や組の紹介・活動内容(歴史、役員体制、役員の決め方)
- 地域の慣習・ルール(行事、区費、出ごとなど)
- 土地利用ルール(自然公園、土砂災害区域、都市計画など)
- 地域の関わり方(土地・建物利用のプロセスとステップ)
薄く広い交流人口より少なくても濃い滞在人口
正直にいうと、地域が本当に求めているのは事業者ではなく、地域の次の担い手です。
野辺・福の浦には、中学生以下の子どもがいません。
あと数年もすれば、子どもたちがまったくいなくなってしまいます。
事業者が来たとしても、働き手すら地元にいないわけです。
事業者が増えても、景色を守ってきた地元の人たちがいなくなるという現実。
表面的な交流人口を増やしてもトイレやゴミ、渋滞などの問題が生じて地域の負担が増えるばかりです。
正直、地元のメリットはあまりありません。
それよりは定期的に地域に通ってくれたり、野辺・福の浦の状況を理解した上で、移住してくれる家族が1組でも生まれることが大事です。
一人暮しのおばあちゃんは何かあったときに相談できる若い人が、近所に1人でもいるだけで心強いと言っていました。
地域に理解ある人を移住に促すプロジェクトづくり
地域に理解ある人たちに移住を促したいという思いは共有できました。
でもだからといって、地域づくりの事業が簡単に組み立てられるわけではありません。
これまで福吉地区などで移住希望者を集めるため、体験農園を実施したことはあります。
野辺・福の浦地区は糸島市内から通うにも遠い上に、果樹園ばかりで平坦な農地がほとんどなく、農園には不向きです。
一方で、すでに海水浴や釣りやキャンプなどレジャーなどの来訪者が多い土地柄。
そうした人たちに対し、地元のみかん狩りや漁業体験などの接点をつくっていく取り組みが早そうです。
甘夏などの果樹園の担い手も高齢化しているので、なんとかできないか区長(当時)からも頼まれたり。笑
とはいえ、すぐに大きな事業ができるわけでもありません。
お金をそれほどかけず、地元も無理をせず、お互い協力できる範囲で取り組みをスタートすることが大事です。
地域の特徴を活かしたいので、地元の大学生たちと一緒に甘夏シロップを使ったかき氷屋台を夏休み限定で実施することにしました。
規格外の甘夏を地元に提供してもらい、試行錯誤しながら準備を進めています。
シロップの加工は、前の事務所時代の先輩に協力を仰いだり、フリーランス仲間にデザインやプロデュースを協力してもらったり。
こちらも面白い取り組みなりそうなので、第3回で報告できればと思います。