野辺・福の浦地区の地区計画と地域づくりvol.1

コンサルティング

こんにちは、ほんちゃん(@hmasa70)です。

福岡県糸島市の野辺・福の浦地区で地域づくりのお手伝いをしています。

この地区は糸島の中でもアクセスが遠く、市街地から車で20分ほどかかる場所。

海岸の景色が美しくレジャースポットになっているため、来訪者は多いものの集落自体は過疎化が進んでいます。

市街化調整区域や自然公園法といった土地利用の制約も厳しい。

どのように地区計画やまちづくりを進めていくか、地元も悩んでいます。

そのため、地域づくり・まちづくりの専門家としてお手伝いをすることになりました。

まだ関わり始めたばかりですが、活動の一旦をご紹介します。

まちづくりや地域づくりに興味ある人の参考になれば、さいわいです。

野辺・福の浦地区の地域づくりに関わるきっかけ

野辺・福の浦地区に関わるきっかけとなったのは、岐志での空き家活用です。

詳細は下記の通りですが、岐志では空き家活用の一環として地元と一緒に七夕まつりなどの地域活動をを行っていました。

きしはま邸の七夕まつり集合写真

糸島の空き家(古民家)再生プロジェクトその3(活用編)

2017年1月13日

野辺・福の浦地区でも同じように地域に具体的な活動を生み出したい、と相談を受けました。

福岡県には、「まちづくり専門家派遣制度」というものがあり、市町村のまちづくり協議会などを支援しています。

その制度を活用して地域に関わることに。

実はそれ以前から野辺・福の浦地区では、土地利用を緩和する地区計画の協議が進んでいます。

内容をみるとほぼ区域や用途も決まり、ボクが関わる必要はないのでは?と思うほど詳細が決まっていました。

ただ地域の状況がわかるにつれ、これはなかなか簡単じゃないなと……。

そもそも地区計画で緩和できるのは、都市計画法の範囲内。

野辺・福の浦地区では都市計画法の市街化調整区域だけでなく、自然公園法の制約が重なっていました。

しかも、その制約が市街化調整区域よりも厳しいもの。

法律地域地区内容(制約は野辺・福の浦地区対象)
自然公園法
(福岡県所管)
第三種特別地域優れた自然の風景地の保護と利用を目的に定められたもの。
建ぺい率20%、容積率60%、建物の最高高さ13m、建築物のセットバック5m以上。
都市計画法
(糸島市所管)
市街化調整区域新たな建築物の建設などを極力抑える地域。
(農林水産業施設や公的施設を除く)
建ぺい率50%、容積率80%。
 地区計画住民合意による地区特性に応じたまちづくりを誘導するための計画。
建築物の用途や建ぺい率、容積率などの緩和が可能。

自然公園法は都市計画法の上位の法律なので、地区計画で越権することはできません。

野辺・福の浦地区の場合、用途の緩和は行えるものの、建ぺい率・容積率などは変えられません。

このあたりの法制度が実にわかりにくい。

地元の人たちに理解してもらうのにかなり時間がかかりました。

すると今度は逆に、地区計画を策定しても何も変わらないのではないか、という不安が広がります。

これは地域活動より前に、まずは自然公園法の範囲内で何ができるか、その読み解きがいると感じました。

建ぺい率とは敷地面積に対する建築面積の割合で、容積率とは敷地面積に対する延床面積の割合です。このルールによって建築物の大きさや高さなどをコントロールしています。

交流人口はいても、過疎化は進む地域

野辺・福の浦地区の平成30年時点の人口は130人、53世帯、高齢化率(65歳以上割合)はほぼ40%(住民基本台帳)。

都市近郊でレジャーによる来訪者が多いのに、集落は山間部の山村さながらです。

最初に挨拶に伺った際、自分の子ども(小2)を連れていったのですが、地元のおばあちゃんたちがえらく喜んでくれました。

話を聞くと、福の浦地区は一番若い子が中学生しかいないのだとか。

集落に子どもがいない寂しさは誰もが感じているようでした。

村が元気だった昭和50年ごろの航空写真をみると、みかん畑が広大に広がっています。

すでに最盛期は過ぎていたそうですが、どの家にもみかん保管用の倉庫があります。

「こんなに山深いところまで管理しよったんか」

「もともとここはビワ畑だったんだけどねぇ」

などなど、いろんな話が出てきます。

集落の人たちと仲良くなって本音で話せるようにと、懇親会を開いてくれましたが、昔の航空写真をきっかけにした話が一番盛り上がりました。

航空写真は、地域の記憶を掘り起こすのに良いツールです。

昭和50年ごろの福の浦地区(国土地理院の空中写真より)

懇談から見えてきた地域課題

集落に何度か通い状況もだいぶ見えてきたので、一度集落の人たちに集まってもらいました。

その会合でボクが意識した大事なポイントは以下の4つ。

  • 自然公園法と都市計画法の制約とできることを確認する
  • 他の地域がどんな状況かを知ってもらう
  • 地域の課題とその優先順位を把握する
  • 地域で使える資源を出してもらう

事例については、野辺・福の浦と状況がよく似た漁村集落で、自治会が行っている移住者の受け入れの取り組みなどを紹介しました。

地域課題については、全員から意見を聞きたかったので、3グループに分かれてワークショップ形式で意見交換をしてもらいました。

野辺地区の人ではじめて会合に出てきた移住者もいて、新たな交流も生まれていました。

小さな集落でも、まだまだ人材はいたりします。

会合での意見をまとめると、以下のような感じ。

  • 土地利用の制約が厳しすぎて新規住宅は期待薄
  • レジャー客向けの店舗や事業の需要はある
  • 地元の期待は地域の担い手になる移住者
  • 移住者が住める空き家がない
  • レジャー客向けの事業に取り組みたいが人手不足
  • レジャーの交通渋滞を緩和する取り組みがいる

意外だったのが、地域の担い手になる移住者を受け入れたいといいながら、使える空き家がまったくないこと。

使えそうな土地は広大すぎて、事業用には向いても住宅地には不向きなものばかり。

地元には漁業に新規参入した若手がいますが、家がないので遠方から通っているそうです。

出口戦略としての空き倉庫の活用

地元の優先順位としては、地域の担い手確保が最優先。

野辺地区の区長は移住者が長年勤めるなど、地元と移住者の関係は良かったりします。

でも住宅を確保できなければ、受け入れの取り組みも何も始められません。

自然公園法の範囲内で何かできることはないか。

いろいろと悩みながらたどりついたのが、空き倉庫の活用でした。

最初に述べたように、野辺・福の浦地区に自然公園法が敷かれる昭和50年4月以前に建てられた倉庫がたくさんあります。

そうした倉庫は現状の大きさで建替は可能。

地区計画で用途を緩和すれば、倉庫以外にも使えます。

建替や改修の費用をどうやって確保するかという課題はありますが、一つの出口が見えたことで、ようやく地域づくりのスタートラインに立つことできました。

地域の目線、立場で考える必要性

野辺・福の浦地区に関わる前、市の都市計画担当者と一緒に入るかどうか悩みました。

結局、自分一人で関わったのですが、結果的にはそれでよかったと思います。

地域の課題は土地利用だけではありません。

地元には、長年地域づくりに関わってきた人や厳しい意見をいう人たちもいます。

自治体の職員が入ると、どうしても過去の経緯へのクレームや要望が増え、感情的になりがち。

地元が主体的に建設的な議論を重ねるためにも、中立的な立場の専門家が必要でした。

  • 土地利用以外の話題がしにくい
  • 職員へのクレームや要望が増える
  • 地元の主体性が生まれにくい

とはいえ、ボクも当初はどんなヤツだと相当疑われたり、警戒されました。笑

ボクが地域と関わる際に心がけていたのは、自治体や法律の代弁者ではなく、地域の立場で考えること。

そのためにしっかり地域に通い、歴史や取り組みの背景を確認しました。

この辺りは、独立して自分の裁量で自由に地元に通えるのがありがたかったです。

一方で、地元には社会状況や他の地域のことを知ってもらうことも大切です。

周辺の開発や不動産の動き、地域づくりの動向などは意外と見えていないもの。

過度な期待を抱かせて、あとで落胆させないためにも、地域に関わる初期段階での情報共有は重要です。

当初は土地利用の制約が多すぎて、地域づくりの出口がないのではという不安を抱かせることになりました。

でも、空き倉庫の活用という切り口を見つけたことで、なんとか少しづつ信用してもらえるようになりました。

さいごに

今回は、地域に関わる際の入口部分の紹介でした。

そんなに地域に足を運んで大丈夫かと周りからも言われます。

実際にこの活動は採算度外視で、収入は別の事業やコンサルティングで確保しているから取り組めています。

地域づくりが趣味なのと、糸島市の住民なので通えているのが現状です。

とはいえ、まったく稼ぐ気がないのかといえば違います。

レジャー客向けの期間限定的な取り組みや事業者向けのサブリースなども実は仕込み中。

その辺りについては、また別の機会に報告したいと思います。

福岡県まちづくり専門家派遣制度とは、良好なまちなみ形成やまちづくりを行う地域住民団体や市町村に対して、県登録の「まちづくり専門家」を派遣する制度。年間3回程度(計15時間)の派遣費用を県が負担してくれます。
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