糸島市福吉地域で2回目の農園チャレンジ

プロジェクト

九大と連携して「糸島まるごと農学校」を立ち上げる

糸島市の福吉地域で「糸島まるごと農学校(以下、農学校)」をお手伝いしたのはもう9年も前のこと。

旧二丈町が合併して糸島市になる前に九州大学と福岡県と連携して実施した糸島学研構想の事業でした。

当時は野菜の作付指導や座学を行う農園は少なく、九大農学部の先生、地元の農家や種苗店などの農業関係者が講師になって指導を行うという珍しいプログラムでした。

私は農学校の立ち上げから3年間ほど関わらせてもらいましたが、糸島市の合併に伴い、担当者の移動やプロジェクトの位置づけが変わるなどして、いつの間にか疎遠になっていました。

私自身の思いとしては農学校の運営ノウハウを地元に蓄積し、NPOなどの組織を立ち上げて継続的に実施できるようにしたいと思っていました。

そのため、当初は3万円近い参加費をもらっていたのですが、行政が関わる事業で収益を上げることが問題視され、参加費を減額させられるなど、運営面で苦労したことを覚えています。

2009年当時の農学校の募集チラシ

地元の人たちと3人で任意組織の「体験農園」を立ち上げる

今回、再び福吉で農園事業に関わることになったのは、福吉地域づくり推進協議会の一人である井口 賢治さんとSNSを通じて知り合ったことがきっかけです。

井口さんは福吉に移住し、映像製作などの仕事をされていますが、商工会や観光協会の理事としての顔もあり、地域の振興に熱い思いを持っていました。

たまたま、福吉という地名つながりで農学校の話題を出したところ、当時野菜づくりの指導をしてくれた農家の加茂正嗣さんが協議会会長であり、農学校事業を再び実施したいと考えていることを教えてくれました。

井口さんの仲介で福吉のスナックで加茂さんと再会。

以前の農学校の活動記録すら渡していなかった不義理を恥ずかしく思いましたが、「ぜひ一緒に手伝ってほしい」と言われ、その場で協力を約束しました。

加茂さんと再会したのが年明け早々の1月6日。

春から農園を始めるには、すぐにでも事業母体を立ち上げる必要がありました。

地元の協議会や直売所に母体になってもらえると予算を使って大規模に実施できるかもしれませんが、意思決定に時間がかかります。

そのため、加茂さんと井口さんと私の3人で任意の母体をつくり、事業を進めながら、必要なときに地元に協力を呼びかけようということになりました。

3人だとフットワークは軽いのですがお金がありません。

補助金も頼らずに自分たちのできる範囲で事業を構築する必要があります。

農学校では「座学」が魅力の1つですが、講師費用や調整が大変です。

将来の農家を育成するつもりなら座学も必要ですが、都市住民との交流に力点を置くなら必要ありません。

限られた予算と時間の中でできる範囲を絞り込み、初めて野菜づくりを行う人を対象にした「体験農園」を実施することにしました。

農地も直売所に近いなどアクセスが良く、規模も1反(約千㎡)程度の場所を加茂さんが借りてくれました。

区画の数よりも参加者の距離感を縮めたい

短い準備期間中、他の体験農園を見学したり、サイトなどを見ていると、どの農園も一区画が30㎡ぐらいで年間20種類ぐらい栽培しています。

農機具小屋や休憩場所、水道の設置などの設備が充実した農園もあります。農園数もずいぶん増えています。

しばらく農園事業に関わらない間に状況はだいぶ変わっているようでした。

今回の圃場は千㎡程度なので、1区画30㎡とすると最大30区画つくれます。

人数が増えればグループを2組に分けて、土日別や時間別に分けた対応も考えられますが、受け入れ数を増やすより、むしろ人数は少なくても、参加者と福吉地域の農家や地域との距離感を縮め、長く通ってもらえるような関係づくりを目指そうということになり、最低10組、最大でも20組とし、共用の畑をつくって収穫祭などの交流活動に活かそうと決めました。

ようやく「福ふく体験農園」という名称が決まり、募集内容を整理できたのが3月下旬。入学式やGWの話題が出始める前になんとかプロモーション活動を始めることができました。

とはいえ、井口さんがつくってくれたチラシやFacebookでのネット配信が頼りです。

4月初旬は参加者がまったく伸びず、本当に開催できるだろうかと不安になりました。

体験農園に関する共著もある西日本新聞の佐藤弘さんが写真付きで農園の紹介記事を書いてくれたことで、参加申し込みや問い合わせが増えはじめました。

ほっとしたのもつかの間、熊本地震が発生し、取材のキャンセルや自粛ムードもあって参加者は伸び悩み、最終的には8組の参加となりました。

なかなか思うように行きません。しかも意外にも8組中4組は地元福吉からの申し込みでした。

西日本新聞に掲載してもらった記事(2016.4.6)

お付き合いから生まれる「こと」の可能性

私個人の思いとしては、今回の野菜づくり体験を通じて、福吉地域の方々と参加者の接点をつくることで、交流人口よりもちょっと深い「お付き合い人口」を増やせないかと思っています。

たとえば、現在の農村移住は、地域のイメージや家の立地条件で選び、近所付き合いや地域のしきたりなどは後回しです。

地域との相性が良ければいいですが、合わないケースもきっとあると思います。

お試し居住などが人気なのも、少しでも地元の空気を肌で感じたいというニーズがあるからだと思います。

具体的にはまだ調べてはいませんが、福吉地域でも空き家が増えているそうです。でも、ほとんど賃貸物件としては出てきません。

相続などの問題もありますが、農村では親戚などがいないと借りることが難しい状況です。

農園を通じて素性がわかっていれば、地元から斡旋してくれる人が出てくるかもしれません。農村では畑の管理が人柄の判断材料だったりします。

移住の話は理想ですが、「お付き合い」が始まれば、「相談」が生じ、「こと」が起こる可能性が生まれます。

もっと都市の人と農村の人の交流の場ができることで、新しい地縁が生まれてくれればと思います。

最初は4組の移住者の参加に驚きましたが、身近な交流が増えそうでとてもありがたく感じています。

まだ夏野菜の作付などで手一杯の状況ですが、少しずつ参加者同士や農家との交流機会を増やしていければよいなと思っています。